ノルウェー最高標高の鉄道駅 フィンセ(Finse)駅から、ハルダンゲル氷河の周りにあるトレイルを一周して来ました。
トレイル上にあるDNT hytteに泊まりながら、2泊3日、75kmのソロ山行。
毎日たくさん歩いてへとへとになりましたが、ノルウェーらしいスケールの大きな自然に圧倒され続けた3日間になりました。
概要
・日程:2023年7月7日(金)~7月9日(日) 3日間
備考:6日(木)夜行列車にてオスロ-フィンセ移動
9日(日)の夜はFinseHyttaに宿泊し、10日(月)にオスロ帰着
・天気
1日目:霧・曇り
2・3日目:晴れ
・アクセス:オスロからベルゲン急行にて4時間20分
※車でのアクセスはできません
・スタート地点の標高:1222m(フィンセ駅)
・距離:73~75km程度
※UT.noの記載だとトータル69.3kmになっているが、2日目の距離が20kmと記載されているのはおそらく誤りで、23~24kmが正しい。
私自身のログでは75km程度。
・獲得標高:2000~2100m
ルート
Stravaのログがうまく取れていなかったのでUT.no参照
Googleマップ(フィンセ駅)
フィンセ駅、ハルダンゲル氷河について
フィンセ駅(Finse stasjon)
ノルウェー最高所の鉄道駅で、標高1222mにあります。
首都オスロと、ノルウェー第2の都市ベルゲンを結ぶ”ベルゲン急行”の停車駅の一つで、このフィンセ駅のあたりの車窓からの眺望は特に人気。
夏は登山やサイクリング、冬はクロスカントリースキーの出発点として多くの人が訪れます。
駅の前に、DNT(ノルウェートレッキング協会)のFinsehytta、ホテルなどがあります。
フィンセとスターウォーズEp.5
このフィンセですが、スターウォーズEp.5のロケ地になったことでも有名だそうです。
スターウォーズEp5のWikipediaにも撮影のビハインドが一部記載されています。
ノルウェーのフィンスでのロケは吹雪に遭い交通が遮断され関係者には寒さによる凍傷の危険もある『シャイニング』さながらの撮影となったが、ノルウェーの軍と政府の協力もあって無事に終了した。
(スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲Wikipediaより)
また、COVID-19の都合等でここ数年は中断しているようですが、「VISIT HOTH」というスターウォーズファンのイベントが毎年3月頃開催されているようです。
ファンが集まり、撮影スタッフがゲストスピーカーとして呼ばれて交流できたりするイベントで、この日はホテルが予約でいっぱいになるそう。
ファンの方のサイトにイベントの様子や、ロケ地のマップが載っています。
ハルダンゲル氷河(Hardanger jøkulen)
ハルダンゲル氷河は、ノルウェー本土で6番目に大きな氷河で、面積は約73㎢、氷河の最高標高点は1860mです。
北ヨーロッパ最大の山岳高原であるハルダンゲル高原(Hardangervidda)の北に位置しています。
ドイツ軍の氷河空港建設計画
第二次世界大戦下、ノルウェーはドイツに占領された歴史がありますが、そのときドイツ軍はこのハルダンゲル氷河上に空港を建設する計画を進めていたそう。
ノルウェー北部での戦闘のための給油地点が必要だったこと等が建設の理由で、標高の高いところに滑走路を建設することで航空燃料の節約ができると考えたようです。
ハルダンゲル氷河は台形のような形なので上部は平らなものの、滑走路にするにはクレバスを埋めたり、過酷な気候条件の中での作業が必要で建設は難航したよう。
結局、テスト飛行はしたものの、実際に運用されることなく終戦しました。
参考:
ルート情報・装備
ルート情報
雪渓:アイゼンの必要はなかったものの雪は多く残る
※年、時期、本人の経験値によると思うのでご参考まで。
UT.noの6月末の登山道レポートでは「雪はほとんど溶けた」と書いているものの、3日間通じて雪渓歩きは頻繁にありました。
このルートに限らず、ノルウェー人の「雪は溶けた」のレベルは、日本人の感覚とは異なるので、こういう記載には注意が必要です。
念のため、6本爪アイゼンを持って行きましたが、結果的にすべてアイゼンなしで歩行可能でした。
万が一滑落した場合にも大怪我をしそうな場所はほぼなく、フラットフッティングとキックステップができる人なら問題なく通過できるというのが個人的な印象です。
雪渓のほとんどは平ら、もしくはゆるい斜度の地形にあり、雪はゆるんでいてキックステップはしっかり入りました。
最大でも斜度20度程度で、そういう場所は3〜4m程度の短い区間、かつ登り斜面のみでした。
渡渉:夏になると橋が架かる。橋が架かる前の時期の登山は向かない。
水量が多い場所には橋が架かっています。
橋は通年架かっているものもありますが、夏にしか橋を架けない場所も多いです。
橋がないと渡れない場所が多いので、橋が架かる前の時期には向かないルートです。
今年は7月1日に全ての橋が架かりました。
UT.noで情報があるので事前チェックが必要です。
その他、水量がそこまで多くない渡渉点には橋はないものの、渡りやすいように細かく石が置かれていて、足を濡らすことなく渡渉可能でした。
水:川・湖・雪解けなどから頻繁に補給可能、浄水器があるといい
整備された水場はありませんが、トレイル上は川や湖が多く、雪も残るので水は豊富。
ノルウェーではエキノコックスの感染の危険はないものの、大腸菌・カンピロバクターなどの懸念はあるので、煮沸、もしくは浄水してからの飲用が望ましいです。
とはいえ私は浄水器を持参するのをすっかり失念したので、なるべく上流からとったり、雪渓の融水などを取るようにしていました。
ひとまずお腹は壊さず無事でした。
(日本に帰ったらピロリ菌の検査はしておこうと思います。山屋は必須。)
服装・装備・計画の注意点など
今回の山行で移動する標高は950m~1500mの間ですが、常に森林限界を超えていて気温も低いです。(今回は最低で6~7度、最高で20度程度)
気象条件によっては真夏でも低体温症になりかねないような気候なので、防寒着はしっかりめに用意しました。
夏の北海道の山登りのイメージで準備をするのがいいと思います。
装備は小屋泊なので軽めの30Lザック。
食料は小屋での調達を見越して準備。
小屋にベッドはありますが、リネンは持参が必要なので、シュラフカバーと枕カバーを持っていきました。
また、日本の夏山登山と大きく違う点は、日が長いことと、夕立がないこと。
7月上旬の日の出は4時過ぎ、日の入りは22時半頃。
かつ、夜中も真っ暗にならずに薄っすら明るい時間が続きます。
さらに、日本の夏山では高確率で夕立が降りますが、ノルウェーの山では降りにくいです。
そういう条件なので、朝9時~10時頃にゆっくり歩き始めて、18~19時頃にテントを張ったり小屋に着く人も多いです。
あまり朝早く出発してもかえって寒いので、ノルウェー人に倣って遅出遅着での行動でした。
山行記録
1日目:Finse~Rembesdalseter(21km)
夜行列車でフィンセへ
前日の23時の夜行列車でオスロを出発し、朝4時にフィンセ着。
オスロを出発して検札が来るまでは車内が明るいですが、検札が終わると電気は消されます。
一番安い席は新幹線の座席のような感じですが、ベッドのある席も買えます。
フィンセ駅の手前で、駅員さんが起きているか様子を見に来てくれました。
ひとつ前の駅までは視界があったものの、フィンセで下車したときは濃いガスに包まれていて、霧雨も降っている状態。
天気が良ければ歩き始めますが、電車でよく眠れなかったのもあり駅の待合室でしばらく寝てから出発しました。
朝10時頃までは次の電車もこないので、誰もいない待合室でした。
出発~トレイルの最高標高点へ
天気予報をチェックしつつ、朝ご飯も食べて8時にようやく駅を出発。
雨は止んだものの風が吹いていて寒い。
ベースレイヤーは厚手の方がよかったなと反省しつつ、まだ視界のよくないフィンセ湖の隣を歩きます。
まずはRallarvegenという鉄道建設用の道路跡を歩いていきます。
ちなみにRallarvegenはノルウェーで最も美しいサイクリングコースとして有名です。
鉄道跡を進んだ後、線路を超え、本格的にトレイルに入っていくと、さっそく今回のルートの最高標高点1500mを目指して登っていくことになります。
とはいえ標高差は300mで、斜度も急ではありません。
最高標高点あたりを過ぎたところでようやくガスが晴れ始め、ハルダンゲル氷河が顔を出しました。
思っていたよりも大きく、なんとも荘厳な感じの佇まい。
目の前の湖とのコントラストが良い風景になっていました。
小屋まで下っていく
最高標高点を過ぎたあたりから、遠くの景色が見渡せるようになってきます。
標高が高いところでは電波が入りますが、小屋は谷の中で電波が入らないだろうと踏んでいたので、翌日の天気予報のチェックや、夫への生存報告、日課のDuolingoなどを電波が入るうちに済ませました。
小屋までは急な下りもあるので、足元に注意しつつ進みます。
岩場が多いですが、濡れているところはうっすら苔が生えていて滑りました。
一度まあまあ派手にこけて、ベースレイヤーに穴空いてしょんぼり…。
DNT Rembesdalseterに到着
宿泊する小屋、DNT Rembesdalseterに到着。
目の前には氷河から溶けた水でつくられた氷河湖が広がります。
小屋の近くには放牧されているヒツジが!仔羊も一緒でかわいい。
小屋は16ベッドで、うち6ベッドはインターネットから予約可能です。
この小屋はどこから出発しても20km程度歩かないと辿り着けない小屋なので、そこまで混雑することはなさそう。
この日は60代くらいのご夫婦、パパと息子2人旅の方と相部屋でした。
お水は井戸がないので川から汲みます。
電気はないですが、外が明るいのでキャンドルなしでも過ごせます。
小屋は無人ですが、食料は街とそこまで変わらない値段で調達可能です。
買ったものはDNTのアプリを使って支払います。
※ビールが手に入らないので注意
この小屋の食料は沢山の種類を置いているわけではなかったですが、トマトスープの素を購入して、持参したミートボールとフリーズドライの野菜を入れて夜ご飯にしました。
トマトスープにマカロニが入っているのでそれなりにお腹が膨れます。
足りなければパスタやクラッカーがあるので足せば良いと思います。
夕食後、相部屋の皆さんはのんびり本を読んだりしていましたが、私は寝不足のため早めに就寝。
10時間くらいぶっ通しで熟睡してしまいました。
2日目:Rembesdalseter~Kjeldebu(24km)
Rembesdalskåkaを望む
翌日はのんびり9時出発。
まずは小屋の前に見えていた湖に沿って歩いた後、標高を上げていきます。
標高をあげていくと、小屋の前の湖に流れ込んでいる水の源であるRembesdalskåkaが見えてきます。
Rembesdalskåkaのような氷河の末端の場所は「Brearm(氷河の腕)」という表現でUT.noなどに出てきます。
初めて近くで見る氷河の迫力に圧倒されました。
流れている水量もかなり多くて驚きです。
小屋までの分岐に向かう
Rembesdalskåkaを通り過ぎ、岩場を登り切ると、しばらく草地の多いルートを下っていきます。
この日はウルトラトレイルの大会をやっていたようで、よく人が通ります。
1日目はあまりにも人に会わな過ぎて、違う惑星に来てしまったのではないかと不安になるくらいだったので、ちょっとほっとしたりもしました。
ちなみに、今回の3日間の山行中に出会ったのはこのウルトラトレイルの人たちの他は、5~6パーティー程度。
テント泊半分、小屋泊が半分くらいな印象です。
おそらく同じ日程でハルダンゲル氷河を一周していたのは、私の他に2パーティー。
中でも、1日目から3日目までよく会った若いお兄ちゃん二人組はテント泊装備で、ハルダンゲル氷河を一周したあと、さらに北の方のトレイルを3日間歩きに行くんだ!と話していました。健脚~。
この日の行程の残り10kmくらいのところから少し登り返して、再び小屋の分岐まで下っていきます。
この登り切ったところあたりから、小屋まで電波が入ります。(テレノール、ice)
この登り切ったあたりからの草原と川の景色は、久しぶりに心が震えるくらい感動しました。
DNT Kjeldebuに到着
FinseとKjeldebuの分岐を過ぎてから、4km程度歩いて小屋に到着。
ヘトヘトな体にこの4kmが果てしなく遠く感じて、小さな上り坂にキレそうになるくらい心身が限界でした。
DNT Kjeldebuは割と大きめの小屋で51ベッドもあるそう。
AとBの2棟に分かれていて、Bの小屋が予約可能。
太陽光発電をしていて部屋の電気はつきますが、充電はできないので注意。
ここはウルトラトレイルのチェックポイントになっているとともに、KIOSKにもなっていた様子。
大会運営と小屋の管理も兼ねているようなファミリーがいらっしゃり、部屋までの案内や、食料庫の案内をしてくれました。
長期滞在している雰囲気だったので、夏休みの時期などはしばらくいるのかもしれません。
この小屋の食料庫は大きくて、今まで来たセルフサービスキャビンの中で一番の充実具合。
アイスティーと、フルーツカクテルの缶詰を買って夕食のともにしました。
ごみは捨てて帰ることができます。
3日目:Kjeldebu~Finse(27km)
泥に浸かりながらLeiro川沿いを歩く
ついに最終日。
最終日が1番長い距離の日なので、いつもより早めの7時30分出発。
ちなみに7時30分の時点で小屋にいる誰も起きていません。みんな寝ています。
まずは小屋とfinseの分岐まで1時間程度かけて戻り、Leiro川の横を通って谷の間を抜けていきます。
無事に分岐まで到達し、Finse方面に歩き初めてわずか10分で事件は起きました。
湿地帯を歩いていた時に、膝下まで思いっきり泥に浸かったのです……。
両足ともがっつり浸かって抜け出すのも一苦労。
靴の中まで泥が入ってきてべちゃべちゃになりました。不快極まりない…。
山行後、「なんでこの国、こんな深いところがあるの…!?」と半ギレで夫に話したら、「平らなところは水はけが悪いから…。尾瀬に木道がなかったらこんな感じじゃない。」と言われてなるほどね…となりました。
次にこういう地形の山に行くときはゲイター必須ですね…。
最後の登り斜面を越え、フィンセを目指す
谷の中の平野を進み、淡いブルーの湖を超えると、今回最後の登り。
湖の脇にある岩場を登っていきます。
いい雰囲気ですが、急なところ、狭いところもあるので気を抜いて転がり落ちないように気を付けて進みました。
登りきってしばらく歩くと遠くにフィンセ駅やホテル、Finsehyttaが見えてきます。
フィンセに近付くにつれて、テント泊のファミリーや釣り人とすれ違うようになりました。
最後の分岐の看板が出てきてからFinsehyttaまでは5km程度。
あとは遠くに見えるFinsehyttaを目指してひたすら下っていきます。
Finsehytta到着、Finsehytta泊
Finse湖にかかる長い橋を渡ると、初日の最初にも通った道路跡 Rallarvegenが出てきます。
日本の山の縦走と違ってアップダウンは少ないとはいえ2泊3日で70km以上を歩いたのは初めてだったので、やっと終わる~という安堵感と、やり切った達成感で胸がいっぱいになりながらFinsehytta着。
Finsehyttaは有人小屋で、もはやホテルのような感じなので、夕朝食つき、シャワーも使えて、タップビールも飲めます。
7つベッドのある大部屋に泊まって、1泊900NOK(1万円ちょい)くらいでした。
ビールは高いですが、ご褒美で買ってしまいました。(1杯1300円くらい)
同じ値段でFinseのオリジナルのビール?が4種類くらいから選べました。
IPAはさっぱりフルーティーで美味しかったです。
夕食は19時~と、21時~の二部制で、朝食は8~9時の間でビュッフェスタイルです。
この夕朝食の時間設定がゆっくりな感じも、ノルウェーらしいなと思いました。
お湯を水筒に入れたりすることは可能です。
また、朝食ビュッフェで出ているパンやクラッカーなどは昼食用に持っていくことも可能です。
これから山に出発する人たちは、小さいタッパーみたいなものを持参していて、パンなどを詰めて持って行っていました。
チェックアウトは11時までです。
10時30分の電車に乗り、オスロまで帰りました。
帰りの電車はベルゲン帰りの人でいっぱいでほぼ満席でした。
咲いていたお花たち
まとめ、感想
ノルウェーに来てから初めての夏山ロングルートでした。
亀の歩み&牛の歩みな私は毎日10時間近く行動していたのですが、毎日それだけ長く歩いていても飽きることのない、美しくて、雄大なノルウェーの自然には深く感動しました。
フィンセを起点にしたルートはほかにも多くあり、サイクリングも興味があります。
氷河トレッキングもできるみたいなので、いつかチャレンジしてみても面白いかも…。
また、フィンセはスキーツアールートとしても良さそうな場所が沢山あるので、次は冬に訪れたいと思います。
実は今年のイースターのスキーツアーの候補地でもありました。
(スターウォーズ見てから行かないと…)
たくさん歩いて疲れましたが、ノルウェーの初めての夏にいい思い出ができました。
長い記事になりましたが以上です!
短い夏山シーズンですが、まだまだ行きたいところが沢山あるので週末の天気がずっといいことを祈ります。