イースターの最後はノルウェー最高峰のGaldhøpiggen(2469m)に行ってきました。
はじめての氷河の上の山スキーでした。
氷河での山スキーの安全管理について色々と考えを巡らせるきっかけになった山行になりました。
その①、その②はこちら
9日目(3月31日):移動日 Spiterstulenへ
朝から雨。
翌日のイースター最終日がようやく安定した晴れ予報。
ここまでずっとぐずぐずした天気で1日中晴れる日がありませんでしたが、せっかく安定した天気なら今まで行ったことないノルウェーの最高峰Galdhøpiggenに行ってみることに。
Galdhøpiggenの目の前にあるSpiterstulenにはデンマークに住むノルウェースキー愛好家のお二人が滞在されていたので、合流させてもらいました。
イースター反省会と称し数日間の山での出来事をあれやこれやと沢山話しました。
話すことが尽きず気が付いたら夜1時まで飲んでいました。
Spiterstulenのホームページ
宿泊予約はネットから。
Spiterstulen turisthytte - gir hverdagen et pusterom!
10日目(4月1日):Jotunheimen Galdhøpiggen(2469m)
・天気:晴れ
・駐車場:路肩に数台
・通行料・駐車料金:なし
・登山口の標高:990m
・山頂の標高:2469m(今回は2250mまで)
・距離:25km
・獲得標高:1244m
ルート
Google マップ
この宿の手前の路肩に駐車
ゆるく長いマイナールート
快晴無風のアタック日和なのに、ピッケルもアイゼンも家に忘れた不届き者の私たち…。
こういう日のために常に車に積んでおけばいいのになぜこういうことになるのか。
ということでSpiterstulenからのルートは斜度が急な場所もあるので雪の状態によってはアイゼンに切り替える可能性が高いと考え、急なルートを通らないJuvasshytta側のルートからスタートすることにしました。
Juvasshyttaからのルートは途中Styggebreanという氷河を通るルートで、夏季はクレバスに落ちる危険があるのでガイド同伴でアンザイレン(ロープで各々をつないで歩く)しながら行くルート。
Spiterstulenからのルートよりも距離は長いものの、斜度はずっとゆるいルートです。
ルートの情報もそこまで多くなく、今回はハーネスも長いロープもないので、氷河の手前まで偵察程度にとどめるつもりで出発しました。
この時期はJuvasshyttaまでの道路は除雪されていないので、Juvasshyttaまでの5km分は歩かないといけないので距離はそこそこ長いルートです。
かわいいワンコが先導してくれる
Hyttaの近くの路肩に駐車してからスタート。
歩き始めて5分くらいしたら、Hyttaからかわいいワンコがこちらに向かって走ってきました。
とっても人懐こくて、私や夫にじゃれたあと、先導して歩いてくれました。
さながら専属ガイドのよう。
なんやかんや30分近く一緒に登ってくれたあと、Hyttaのご主人に名前を呼ばれて駆け下りていきました。
おそらくフィニッシュ・ラップランドという犬種だと思われます。
お顔は柴犬っぽい感じですが、しっぽが長くてふさふさ。
かつてサーミの人々がトナカイの群れを守ったり誘導したりする仕事をさせていた犬種だそう。
(この情報を見ていたら「ラップ人」という表現のサイトも出てきましたが、今では「ラップ人」という表現は差別用語にあたるようです。初めて知りました)
Juvasshyttaと氷河スキー場
Juvasshyttaの目の前には氷河スキー場があり、夏も滑ることができます。
今の時期はもちろん動いていませんがリフトがかかっているのが見えました。
Juvasshyttaから少し進むとGaldhøpiggenの山頂とStyggbreanとPyggebreanの2つの氷河が見えてきます。
湖が凍ったように真っ平なので、氷河の場所はすぐに分かります。
Spitersturenから登っている人や、Galdhøpiggen山頂からPyggebreanを滑っている人の姿も見えるようになってきました。
もともと氷河手前で引き返そうと思っていたものの、ここまで割といいペースで進めていて、山頂もすぐそこ。
さらに進もうと思っていた氷河を2人滑っているのが見えてしまい、誰か滑っているなら、と、さらに先に進む判断をします。
山頂まで残り200mで撤退
氷河は無事に渡り切り、あとは山頂のすぐ下の岩稜を登るだけ。
地形図を見る限りそんなに難しそうに見えなかった岩稜が近くにくるととても急に感じます。
ここからは板を脱いであがっていくことになりますが、スキーブーツでこの岩稜を登り上げられる自信がどうにも持てず、今回は目の前に山頂が見えていながらここで下山することにしました。
約一か月後、Spiterstulenから登った際にここの岩稜を向こう側のKeilhaus toppから見た時はそんなに急に感じない上、最後まで岩稜を登り上げずに途中からシールでトラバースしているトレースが見えて、これだったら行けたなあ…と思ったり。
とはいえこの時は、無理して登って滑落するよりマシだー。と悔しいながらも撤退することにしたのでした。
斜度がゆるすぎて難儀な下山
さて再び氷河を滑って帰ります。
行きに使ったトレース通り、なるべく同じ場所を夫とは距離を取りながら滑ります。
氷河を超えた後、Juvasshytta付近はとにもかくにも斜度がゆるすぎて進まない!
こんなにゆるいならBCクロカン板の方が軽いし楽だなあと若干の後悔が…。
途中からはさらにモナカっぽくなってきて滑りにくさも増しましたが、なんとか下山。
滑ってる途中、3羽のライチョウが目の前を飛んでいきました。
氷河の滑走について考えたことなど
本当にあの装備で行ってよかったか?というモヤモヤ
今回、特に問題なく氷河の上を歩いて滑って帰ってきたわけですが、帰宅してから「本当にあの装備で行ってよかったか?」を考えると反省の残る山行だったかなとも思います。
・UTにはシーズン初めと終わりの氷河の状態についての注意喚起はされているものの、氷河装備についての推奨は書かれていない
→まだ4月頭で十分埋まっているだろうし、氷河装備が必携なルートではないのだろう。
・迷っていた時に他のパーティーが滑っているのを見た
→他のパーティーも滑れると判断しているし、トレースがある場所を辿れば大丈夫なのではないか。
・天気もいいし、良いペース。山頂は目の前
→こんな日を逃すと今シーズンでこんないい条件の日に山頂に立てるチャンスは巡ってこないのでは。
今回はこんな思考回路で氷河の上を滑ることにしてしまったわけですが、雪崩のリスク評価のときにもよく言われる「認知の罠」に引っかかってリスクを過小評価してしまったかもと思います。
下山してから冷静になって考えれば、氷河という表面からは見えなくて客観的にリスク評価をしにくい場所を滑る以上、「この装備の状態でクレバスに落ちたらどうなる?」という最悪のケースの想定を甘く見積もったのは良くなかったなと反省しました。
Juvass hytta~Galdhøpiggenルートは氷河装備をすべきなのか?
4月末、再びGaldhøpiggenに登りに行きました。
このときはSpiterstulen側から。
そのルートを調べたりしながら、夫がこんなページを発見します。
5月17日のJuvasshyttaからGaldhøpiggenを目指すツアーに参加した人の記録
調べてみるとどうやら、5月17日のノルウェーの憲法記念日から6月までは、Juvass hyttaまでの道路が開通し、さらにガイド同伴が不要でGaldhøpiggenに登れるらしい。
この記録の人はJuvasshytta主催のツアーに参加しているようですが、参加費は無料。
今年のJuvasshyttaの案内を見る限りでも、アイゼンが必要になるかもとの記載はあるもののハーネスなどの装備についての記述はなし。
(同時期ほかの氷河を滑るツアーの案内にはヘルメットやハーネス持参するようにとの記述が見られる)
写真を何枚か見る感じでも、氷河装備をしている人の姿は見当たらないし、なによりすごい数の人が列をなして歩いている…。
5月中旬でこんな感じのツアーをするくらいの場所なら、4月頭にStyggebreanでクレバスに落下するリスクは低いのだろうなあと思います。
夏場のルートも良く知っていて、どのあたりに穴が開きやすいかを分かっている人がルート取りをしているとは思いますが。
これはハーネスやロープがなくてもこの時期は良いということなのか?とも思いたくなりますが、とはいえ、ルート本などによっては氷河装備を持って行った方が良いと書かれていたりもしますし、”万が一”がいつ起こるかは分からないのでもしもう一度同じタイミングでこのルートを歩くことがあるとしたら、私はハーネスやロープを持っていくかなあと今は思っています。
氷河が安全か危険かを判断する方法
「雪に覆われている氷河の状態が安全なのか、危険なのかを判断する方法」については、夫がイースター明けに出社した際、ノルウェー人の雪山フリークの同僚たちとも議論になったそう。
ノルウェー人の同僚の中にも「誰かの滑ったあとなら大丈夫じゃない?」という人もいたそうです。
ですが最終的には「『誰かが通った場所は安全』というのは不確実で、分かることは『誰かが落ちた場所は危険』ということだけだよね」という結論になったとのこと。
雪崩の評価も同じで、先に滑走した人で雪崩れていないからこのラインは安全だ、というのは安全だと判断する理由にはなりません。
そして滑る前に客観的に100%確実なリスク判断ができないからこそビーコンなどの雪崩装備を持って入山しています。
きっと氷河もそういう点は同じように考えるべきなんだろうと思います。
日本には滑れる氷河がほとんどないので、私自身、氷河での山スキーのリスクについて考えたことはなかったですし、なかなか日本では議論にあがることはないトピックだと思います。
欧米では海外版のYahoo!知恵袋みたいな場所で時たま議論がなされていて参考になります。
参考:Skiing Downhill on Glaciars: Objective Danger?
ノルウェーの氷河は急な斜度の場所が少ないので、氷河の動きもゆっくり。
ゆえにアルプスの氷河のように大きなクレバスがあくことは少ないというほかのサイトの記述も見かけました。
とはいえ、それもまたノルウェーの氷河は安全だという理由にはならないわけですが。
今回どうしたらよかったのか?について正しい答えを出してくれる人はいませんが、ひとまず今後もノルウェーやヨーロッパで氷河に行く機会はまた巡って来るかなと思うので、そういう時に今回色々考えを巡らせたことが役に立つのかなと思います。
万が一落ちてもクレバスレスキューする自信も、される自信もないので、そのあたりも勉強しておこうと思います。
(こういうのもビーコントレーニングしていないのと一緒ですよね…。アイススクリューは買った方が良いのかなとか、次回に向けて考えることは色々あります。)
今回は氷河について考えるきっかけを得た山行でした。
次回は、登頂できたGaldhøpiggenの記事を書きたいと思います。